人間のアイデンティティは失なわれる?「アルゴリズムが世界を支配する」 | ITフリーランスエンジニアの案件・求人はPE-BANK

フリーランスの案件・求人TOPITエンジニア独立ガイドコラム人間のアイデンティティは失なわれる?「アルゴリズムが世界を支配する」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

I->Read(Books); 〜とあるフリーランスIT技術者の本棚〜

人間のアイデンティティは失なわれる?「アルゴリズムが世界を支配する」

読者のみなさま、はじめまして。
フリーランスIT技術者の平岩と申します。

筆者はPE-BANK所属のプロエンジニアですが、有限責任事業組合アプライトネスのメンバーでもあります。仕事は、業務系システム開発がメインです。

PE-BANK公認の勉強会のひとつ「伏見なんでも読書会」を主催していることもあり、ご縁あってこちらで書評を記すことになりました。

今後ともよろしくお願いいたします。

アルゴリズムが世界を支配する

第1回を記すにあたっては「なにかITに関わるもので、平岩さんがこれと思うもの」というリクエストを編集部からいただきました。

そこで、これまでに読んだ本のなかでITに関わりがあって、なおかつ印象にのこっているものを何冊かあげてみたのですが、そのなかでもっとも時流に合っているかなと感じたこの本をとりあげることにしました。

記念すべき第1回にとりあげるのは、この本です。

アルゴリズムが世界を支配する

アルゴリズムが世界を支配する
著者:クリストファー・スタイナー
翻訳: 永峯涼
刊行: 角川書店
(引用元: http://www.kadokawa.co.jp/product/321306000181/


奥付によると、この本が刊行されたのは2013年10月10日ですので、それほど新しい本というわけでもありません。

それでも、この本をいま取り上げるのは、この本に記されていることが人間とITのこれからを考えるうえで、筆者にはとても参考になったからです。

さて、いまさらといった感じもありますが本のタイトルにある「アルゴリズム」とはいったいなんでしょうか。
ウィキペディアによると、次のとおりです。

アルゴリズム(英: algorithm [ˈælgəˌrɪðəm])とは、数学、コンピューティング、言語学、あるいは関連する分野において、問題を解くための手順を定式化した形で表現したものを言う。
(引用元: https://ja.wikipedia.org/wiki/アルゴリズム)

調べてみたのですが、「アルゴリズム」という言葉がいつから使われるようになったのかは、はっきりしません。しかし、「アルゴリズム」という概念がコンピュータが生まれる前からあったことは間違いありません。
そこからすると、この本のタイトル「アルゴリズムが世界を支配する」をより正しく表すのならば、こうなるのではないでしょうか。

コンピュータとアルゴリズムが世界を支配する


コンピュータが生まれる前から「アルゴリズム」という言葉があったとすれば、さきほど記した「アルゴリズム」という言葉の定義に、当初はコンピューティングにおける定義は含まれなかったはずです。

「アルゴリズム」という言葉の定義に、コンピューティングにおける定義が含まれるようになってはじめて、アルゴリズムは世界を支配するようになったと言えるのだと思います。
ここで言う「支配」とは、これまでは人間にしか解決できないと考えられてきたことが、コンピュータとアルゴリズムによって解決されてしまうことを指していると捉えて良いでしょう。

その証しになる事例が、この本にはいくつか記されています。
コンピュータとアルゴリズムで、金融取引で利益をあげたり医療分野で医師のように治療方法を検討したりといった事例については、この本を読まなくてもある程度まで「そんなことをやっている」と知ってはいましたし、予想もしてはいました。

しかしながら、「まさかそんなところまで」と思わされる分野でさえ、コンピュータとアリゴリズムによって問題が解決されているというのです。
具体的には、自動作曲や、ある曲がヒットする可能性の算出、映画の内容ををもとにした売上予測まで。

このような人間にとって利益をもたらしうるアルゴリズムをより多く生むためには、数理系の教育をうけるひとたちを増やさなければならないと著者は考えているようです。
そのために「アメリカじゅうの高校のすべての生徒が、最低一度はプログラミングのクラスを受けるようなカリキュラムを組むべきだ」(本文より引用)と本書のなかで提案しています。

経験上、これは見方をやや間違えているのではないかと感じます。プログラミングがわかれば、そこから新しいアルゴリズムの発見に興味を持つかといえば、そうとも言えないと思うのです。
オリジナリティがあり価値のあるアルゴリズムを生むには、自然界に対する深い知識や洞察、観察が必要となります。これらはむしろ、プログラミングからは遠くはなれたところ、ともすると理数系ではないところで培われることもあると思うのです。

プログラミングに若いうちから触れることは「コンピュータでこんなことができるのか」と知るには良いのですが、それが必ずしもアルゴリズムを生むための教育にはなりえないというのが筆者の考えです。

このところ、人工知能(深層学習)というアルゴリズムの一種によって「コンピュータがそれを成しとげるには、さらに時間がいる」と言われていたことや「それはコンピュータにはできない」と言われたことができるようになっています。

GoogleのAlpha Goがプロ棋士に勝利したニュースは、まだ記憶に新しいのではないでしょうか。Alpha Goによる勝利は、まさにコンピュータと深層学習というアルゴリズムの融合によってもたらされたものに他なりません。
Alpha Goの勝利は、コンピュータとアルゴリズムによってもたらされた人間のアイデンティティの存亡としてささやかれているように感じます。

では、コンピュータとアルゴリズムによって、人間はそのアイデンティティを本当に失ってしまうのでしょうか。
筆者はそんなことはないと考えています。
そもそも、コンピュータのうえでなぜアルゴリズムを処理するのかといえば、それは人間自身の問題を解決するためです。そんなものがあるかどうかは分かりませんが、コンピュータ自身の問題を解決するためではありません。

そう考えたときに、人間にしかできないことのひとつは「アルゴリズムに解かせるための問題をみつけること」です。こればかりは、人間がするしかありません。

大丈夫ですよ、人間のみなさん。われわれのアイデンティが脅かされることは、どうやらなさそうですよ!



…いまのところは。

平岩 明憲

平岩 明憲

フリーランスのIT技術者です。業務系システム開発をメインにしています。有限責任事業組合アプライトネスのメンバーです。とあることがきっかけで「IT技術者が、さまざまなことについて、いろいろな人と話し会える場が必要だと」と思い立ち、読書会を立案。2012年に「伏見なんでも読書会」をはじめました。

TOP