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トップVRクリエイター高橋建滋氏が語る「VR講演蔵出しSP」

 今回、六本木「Speee Lounge」で行われた講演は、日本最大のVR開発者コミュニティ、NPO法人オキュフェスの代表理事であり、VRコンテンツ開発専門会社、株式会社桜花一門の代表取締役社長、高橋建滋氏が、自身の過去1年ほどの講演内容の中から、「これだけは伝えたい」と選りすぐったエッセンスを、あらためて解説するというものです。
 
 定員150名ほどの会場は、ゲーム業界関係者や若手クリエーター、エンジニアで埋め尽くされ、高橋氏の肩を張らないトークに時折笑いが起こる、楽しいひと時となりました。
 
 VR市場は、2020年にはAR(拡張現実)市場も含めると1,620億ドル(約16兆円)になるとされています(IDC調べ)。しかし、それだけ競争の激しい市場になることは確実。1人のクリエーター、エンジニアとして、どう、自分の能力を生かしていくか、そのためには何が必要なのかは、大いに気になるところです。

やがて「地に足のついた安定期」に入っていくVR市場

 高橋氏は、VR市場の現状について、「過度な期待の頂点から、やや、幻滅期にさしかかったところ」と説明します。氏は、ガートナーの「ハイプ・サイクル」をモニターに映し、多くの最新技術が辿る道を示しながら、「VRも幻滅期を過ぎると、地に足のついた発展期を必ず迎えることになる」と指摘しました。
 
 また、高橋氏は、市場での主要国、米国、中国、日本の位置関係を「三国志」になぞらえて解説します。「米国は魏、中国は呉、日本は蜀、といった感じです。米国はハード、ソフトともに開発投資が集まり、プラットフォームが整理されて、VR専門のゲーム会社もどんどん出てきている。中国は、安いハードウェアをどんどんくり出す。

 日本はというと、アマチュアも含めたエンジニア、クリエーターが、少人数で面白いコンテンツを生み出す流れが定着しつつある。ただ、企業の投資がなかなか結び付いていかないのが現状」では、投資に結びつけるにはどうすればよいのか。高橋氏は、「費用対効果が見込める分野を見つけることが大切」と指摘します。「ヘッドセットはまだ10万円以上はするし、レベルの高いコンテンツを作ろうとすると、膨大な資金が必要です。こうした現状から、VRは、教育用コンテンツとして使えると言われていながら、なかなか発展しない。ところが、ある航空会社の重役の方と話をしていて、航空機の避難訓練教育にならコスト的にも見合うのではないか、という話題になった」
 
 高橋氏は、このような例を出しながら、参加者に「月ではなく太陽になってほしい」と訴えます。
 
 「人から『こんな面白いことがあるよ』と教えられて初めて気づく人が月、誰も気づいていない面白いこと、興奮することを自ら作り出し、市場を形成していく人が太陽。ここに参加している方々は、当然、太陽にならないといけない」

人々に「楽しくてわくわくすること」を提供するためには?

 では“太陽”の側に立つには、どうすればよいのか。高橋氏は、従来の映像表現と対比して、そのヒントを示します。
 
 「現実を映しながら、非現実的な楽しさや面白さを伝える映画は120年の歴史があって、おおよそ、どうすれば観客は作品に没頭できるのか、というメソッドが解析されています。一方、VRは『ほぼ現実に近い状況』を作り出すもの。そこで、見ている人をどうすれば夢中にさせることができるのかは、まだ、はっきりとは示されていない。多くのクリエーターやエンジニアが、さまざまな挑戦を繰り返し、試行錯誤を重ねています」
 高橋氏はさまざまなメディアでVRのエバンジェリスト的な活動もしています。特に面白かったのは、テレビ番組でタレントの叶姉妹に、さまざまなVR作品を視聴してもらったときのこと。叶姉妹の2人が興味を示したのは、スキージャンプを体験するものだったとのことです。
 
 「逆に、有名な観光地のパノラマ体験ができるものは、“わたくしたち、海外にはよく出かけておりますので、こういったものはそれほど面白くはありませんの”とのことでした。お2人は、技術者ではないし、興味のないものははっきりと言ってくれるので、大変参考になりましたね」

 高橋氏は、このとき、叶姉妹の口調を真似て話したので、会場はどっと笑い声に包まれました。
 
 また、高橋氏はコンテンツ制作における細かな留意点についても、具体的に解説します。例えば「VR酔い」についてです。せっかくのコンテンツも体験した人が乗り物酔いをしたような状態になってしまうと、その人は二度とヘッドセットを被ってくれません。
 
 「人間の脳は、過去に体験したことを覚えていて、VRでの体験と自分の過去の体験が食い違うと、違和感が生じ、VR酔いが起きてしまうことがあるようです。例えば、自由に空を飛行できるVRコンテンツで、壁か何かにぶつかる映像が出てきたとき、映像では衝突しているのに、現実には衝突した感覚を得られないと、VR酔いが起きることがあります。また、映像に雪が降っているだけでVR酔いが起きてしまうことがある」
 
 高橋氏は、こうした「VR酔い」が起きる原因や、回避方法について、海外を含めたさまざまな論文を検索し、探求を重ねている自身の取り組みを、淡々と話します。未踏の分野であるVRでは、求めたい情報がすぐに見つかることは少なく、「VR酔い」というキーワードですぐに必要な情報を得られることはありません。そうした中で、コツコツと探求を進める高橋氏の努力に、参加者は熱心に聞き入っていました。

VR技術の最先端の取り組みとはどんなものなのか?

 次に高橋氏は、VRのプレゼンス(実在感)について話を進めます。これは、いかにしてVRコンテンツにユーザーが没入できるようにするか、ということです。
 
 氏は、ユーザーがゲームの中で登場人物に近づいていった際の反応を例に解説します。現実には、他人が速足で駆け寄ってきた場合、人は何事かと、近づいてくる人物の方を見て、体をずらしたり、よけたりします。こうした反応をVRの中で自然に作り出すことで、プレゼンスが増すのだというのが、高橋氏の主張です。
 
 「近寄り方も、走ってくる場合やゆっくりと歩いてくる場合などさまざまです。従来の方法では、ケースごとにプログラムを書き、対応しています。しかしそれでは、あらゆるケースに対応することは無理です。そこで考えられるのは、オートバランサーを使ってプロシージャルに人物の動きを制御する、という方法。まだ、確立されてはいませんが、VR開発の最先端の現場では、そうした取り組みも行われています」

VRは「第4のメディア」。人の進化にも貢献していく

 VR市場の現状から、最先端の研究課題まで、一気に自身の体験を踏まえて話をしてくれた高橋氏ですが、参加者からの「エンジニア、クリエーターとしてVR市場で仕事をしていく上で、何が必要ですか?」という質問に次のように答えてくれました。
 
 「まず、ゲーム制作のスキルは身につけておいた方がいいでしょう。それから、ユーザーの反応を徹底的に観察すること。わたしは、ヘッドセットをつけているときの目の動きなども含めて、ユーザーの反応をかなり細かく追いかけて見ています」

 最後に、高橋氏は、VRは「第4のメディア」であると指摘します。確かに、氏の解説を聞いていると、VRは、人々にこれまでにない、豊富な情報を短時間で提供するメディアになる可能性があるということが分かります。
 
 「このことは、人類の英知に新しい何かを加えることにつながる、とわたしは考えています。われわれは、数百年前、活字による情報に触れることで、自分以外の人間の気持ちを理解する英知を授かりました。そして今、SNSなどネットの情報によって、あやまちを犯すはずがないとされてきた人や組織の、知られざる実情を垣間見ることで、やみくもに権威を信じず自らの判断で行動することの重要性を知りました。VRは、この進化をさらに進めるものになるはずです」
 
 高橋氏はこのように締めくくり、VR技術の進展が切り開く大きな可能性を指し示してくれました。