特別寄稿

時間と「腕」のコントロールを自分の手に取り戻す

佐々木 俊尚

私たちはいろんな仕事を持っている。収入になって、おまけに超楽しいという最高の仕事もあれば、お金のためだけのちょっとつらい仕事もある。ほとんどお金にはならないけれど、素晴らしい出会いや体験をもたらしてくれる仕事もある。

仕事と遊びは、そんなにはくっきりと分かれていない。仕事だと思ってやってたら、気がつけば没頭して楽しんでることって誰でも経験してる。遊びだと思ってたら、気がつけば収入につながってるようなこともある。仕事と遊びの境目は、一本線の境界じゃない。グラデーションのように淡い模様なのだ。境い目ははっきりしない。

それを曖昧でよくないと思う人もいるだろう。オンとオフをちゃんと切り分けないと、一日中だらだらと業務にとりかかるようになってしまい、不健康だと。

でもフリーランスの経験を長く続けてきた私は、そうではないと考えている。フリーランスには、仕事と遊びの区別よりもっと大事なことがある。それは自分の時間と「腕」をコントローラブルにすることだ。働きたいときには働いて、遊びたいときには遊ぶ。目の前にあるタスクが収入になる業務か、お金にならない作業かなど気にしない。自分の好みに合わせて、時間を好きなようにぶん回して使う。そういう時間と「腕」のコントロールを自分の手に取り戻すことがいちばん大切だ。

それはもはやワークスタイルでもなければ、ライフスタイルでもない。ワークもライフも含んだ自分だけの「スタイル」を確立するということである。

そういう視点から仕事というものを捉えれば、おのずと新しい道は見えてくる。自分が向き合っていて、手が届く範囲の世界をイメージしてみよう。それはグラデーション模様になっていて、お金がきちんと入る仕事から完全な遊びまでもがなめらかにつながっている。その全体を自分がどれだけ認識できるか、そしてそこに伸ばす自分の手をどれだけコントロールできるか。そういうビジョンにこそ、これからのスタイルはあるのだ。

佐々木 俊尚
佐々木 俊尚
作家・ジャーナリスト
1961年兵庫県生まれ。 愛知県立岡崎高校卒、 早稲田大政経学部政治学科中退。 毎日新聞社などを経て2003年に独立し、 テクノロジから政治、 経済、 社会、 ライフスタイルにいたるまで幅広く取材・執筆している。
最新刊は「広く弱くつながって生きる」。 「そして、 暮らしは共同体になる。 」「キュレーションの時代」など著書多数。 電通総研フェロー。 総務省情報通信白書アドバイザリーボード。NHK Eテレ「世界へ発信!SNS英語術」、 文化放送「ニュースマスターズ」レギュラー出演。