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フリーランスの業務委託契約書の作り方と注意点、テンプレートを紹介

フリーランスとして活動する上で、業務委託契約書は非常に重要な書類です。契約書は絶対に作らなければいけないものではありませんが、どこまでが作業範囲なのかなどを契約する段階で決めておかないと、後々トラブルにつながる可能性があります。
また、2024年11月に「フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」が施行され、フリーランスの取引環境が変化しました。契約書の作成や内容に関する新たなルールが設けられており、現在ではそれに則った業務委託契約書を作成することが求められています。
そこで本記事では、フリーランス新法の概要や、法律に対応した業務委託契約書の作成方法、チェックすべきポイントなどについて解説します。適切な契約書を作成し、フリーランスとクライアントの双方が安心して取引を行える環境を整えましょう。
業務委託契約書が必要な理由
フリーランスとして仕事を受ける際、業務委託契約書を交わすことは重要です。まずは、業務委託契約書が必要な理由について、しっかりと押さえておきましょう。
トラブルを防ぐ
契約書を交わして明文化することで、お互いの権利や義務が明確になり、円滑に業務を進めることができます。また、記録として残るので、後々のトラブル回避にも役立ちます。
契約を結ばずに業務を開始すると、仕事内容が曖昧なまま進み、お互いの認識にズレが生じかねません。その結果、想定外の追加業務を依頼されたり、報酬の支払いが遅れたり、最悪の場合は未払いになったりするリスクも考えられます。こうした問題を防ぐためにも、契約書には業務範囲や報酬の支払い条件、契約解除のルールを明記することが重要です。
信頼関係構築に役立つ
契約書がないまま仕事を進めると、万が一トラブルが発生した場合に、合意内容を証明する手段がなくなってしまいます。そうなると、お互いに不安を抱えながら業務を進めることになり、信頼関係が損なわれる可能性もあります。
事前に契約書を作成し、リスクや対処法を明確にしておけば、安心して業務に集中できるようになるでしょう。契約内容が明確になっていることで、クライアントとの信頼関係を築きやすくなり、長期的な取引にもつながります。
業務委託契約書はフリーランスとクライアントのどちらが作成する?
業務委託契約書の作成については、フリーランス(受託者)とクライアント(委託者)のどちらが行っても法的には問題ありません。契約書の作成者は法律で特に定められておらず、当事者間で自由に決めることができます。
多くの場合は、クライアント作成の契約書にフリーランスが同意する形式ですが、フリーランスが契約書を作成し、クライアントに提示することも可能です。
仮にクライアントが契約書を作成した場合、フリーランス側は以下の点に特に注意してチェックする必要があります。
<フリーランスが契約書をチェックする際の注意点>
・事前の話し合いで決めた内容と相違がないか
・不利な条件や曖昧な表現がないか
・フリーランス新法で定められた必要記載事項が含まれているか
・業務内容や範囲が明確に定義されているか
・報酬額、支払期日、支払方法が具体的に記載されているか
・著作権や知的財産権の帰属が明確か
・秘密保持義務や競業避止義務の範囲が適切か
フリーランス側が契約書の内容をしっかりと確認し、必要に応じて修正を求めることで、公平で明確な契約関係を築くことができます。特に、2024年11月に施行されたフリーランス新法に対応した内容になっているかどうかを確認することが重要です。
業務委託契約書を作るポイント
自分で契約書を作り、相手に同意してもらうときには、押さえておくべき注意事項がいくつかあります。以下のポイントを押さえておくと安心です。
業務範囲の設定
契約の段階で、どこまでの作業をもって業務完了とするのかを明確にしておく必要があります。例えば「Webサイト制作」という案件を受けた場合、納品後のホームページの更新作業も含まれるのかどうか、業務範囲が曖昧なままだと、追加作業を求められる可能性があり、予想以上の負担につながることも考えられます。
どこまでの業務が契約に含まれるのかを明確にし、追加作業が発生した際の料金についても、事前に取り決めておくことが重要です。
料金や報酬についての記載
報酬は契約の中でも特に重要なポイントです。支払いの期限について「納品してから一週間以内」など、具体的な期日を明記することで、支払いの遅延を防ぐことができます。
また、契約書によっては、金額を「別途協議の上決定」や「仕様書に定める」として、具体的に記載しない場合もあります。ただし、この場合は、事前に合意した金額をメールや別途文書などで残しておくと安心です。
さらに、税金の取り扱いについても明記が必要です。消費税の適用や源泉徴収の有無を確認し、契約書に記載することで、後のトラブルを防ぐことができます。振込の際の振込手数料は、負担する側を明記しましょう。
着手金についての記載
着手金とは、業務開始前に報酬の一部を受け取ることです。着手金のメリットは、フリーランス側が全額未払いのリスクを軽減でき、クライアント側が先払いすることでより確実な業務遂行を期待できる点です。
しかし、着手金はトラブルの原因にもなり得ます。例えば、案件が途中でキャンセルになった場合、着手金を返金するかどうかを巡って揉めるケースがあります。契約書には、着手金の返金条件や取り扱いについても、明確に記載しておくことが重要です。
キャンセル料についての記載
契約の途中で、どちらかの都合によりキャンセルが発生した場合、その報酬についても取り決めておく必要があります。業務の一定割合が完了していた場合は、完了分の報酬を支払うのか、あるいはキャンセル時の違約金を設けるのかなどを契約書に記載しておくと安心です。
また、やむを得ない事情で納品が遅れる場合は、「双方の協議によって対応を決定する」といった一文を入れておくと、柔軟な対応が可能になります。
著作権についての記載
契約書では、納品物の著作権が誰に帰属するのかを明記することが重要です。一般的に、報酬が支払われた時点で著作権がクライアントに移転しますが、フリーランス側に著作権を残す契約内容にすることも可能です。
特にイラストや写真、デザインなどの制作物の場合、クライアントが納品物を二次使用できるのか、加工・編集の範囲はどこまで許されるのかを明確にする必要があります。最近では、画像やデザインの無断転載が問題になるケースも増えているため、契約の段階でしっかりとルールを定めておきましょう。
フリーランス新法の施行に伴って業務委託契約書の見直しが必要に
2024年に施行されたフリーランス新法により、フリーランスとクライアント間の契約ルールが大きく変わりました。これまでフリーランスの取引環境には法的な保護が不十分な面もありましたが、新法の施行によって不当な取引条件の是正や報酬支払いの適正化が求められるようになりました。以下、その概要をお伝えします。
フリーランス新法の目的と概要
フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事できる環境を整備するために制定されました。「フリーランス・事業者間取引適正化等法」とも呼ばれ、フリーランスと発注事業者との間の取引の適正化が図られ、フリーランスの就業環境の大幅な改善が期待されています。
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保護対象となるフリーランスの定義
フリーランス新法では、保護対象となるフリーランスは「特定受託事業者」と定義しています。特定受託事業者とは、発注事業者が業務委託を依頼する相手方であり、自分以外の従業員を雇用していない個人事業主のことです。法人を設立している場合でも、1人で業務を行っているケースでは法律の適用対象となる場合があります。
フリーランス新法と業務委託契約書の関連性
新法では取引条件の明示が義務化され、クライアントは業務内容や報酬額、支払期日などを、書面または電子的な方法で提示しなければなりません。
契約条件の明示は、メールやSNSなどの電子的方法でも可能ですが、フリーランスが書面での交付を求めた場合、クライアントは遅滞なく対応する必要があります。また、新法では報酬の支払い期限が「業務完了後60日以内」と定められていますが、契約書に具体的な支払期日を記載することで、より確実な取引が可能になります。
フリーランス新法の下では、正式な契約書の作成は義務づけられていません。しかし、取引条件を明確に示すことが要求されています。この要件を満たすためには、多くの場合、業務委託契約書の形で条件を明示することが実務的な対応となるでしょう。
フリーランス新法に対応した業務委託契約書のチェック項目
では、フリーランス新法の施行に伴って業務委託契約書の内容も見直す場合、どのようなことに注意する必要があるのでしょうか。前出の「業務委託契約書を作るポイント」と重複する部分もありますが、ここからは、特に新法に対応した契約書作成時のチェック項目をご紹介します。
■契約書への必須記載事項
チェック項目 | 内容 |
---|---|
業務内容の明確な記述 | 業務の範囲や具体的な作業内容を詳細に記載する。曖昧な表現は避け、双方が理解できる明確な言葉で記述する。 |
報酬額・支払期日・支払方法の明記 | 報酬額は具体的な金額または計算方法を明記する。支払期日は60日以内の具体的な日付を、支払方法は振込先や手数料負担などを含めて明確にする。 |
契約期間・更新条件の明示 | 契約の開始日と終了日、自動更新の有無や更新時の条件などを具体的に記載する。 |
諸経費の負担に関する取り決め | 業務遂行に必要な経費の負担者や精算方法について、明確に定める。 |
■禁止される不当な取引条件
チェック項目 | 内容 |
---|---|
一方的な契約変更・解除条項の禁止 | 発注者側の都合のみで契約内容を変更したり解除したりする条項は避ける。変更や解除の際は、双方の合意を必要とする旨を明記する。 |
著しく低い報酬設定の回避 | 市場価格や業界相場を考慮し、著しく低い報酬設定は避ける。報酬額の根拠を明確にし、フリーランスの納得を得られる金額を設定する。 |
不当な秘密保持義務・競業避止義務の制限 | 秘密保持義務や競業避止義務を設ける場合は、その範囲や期間を合理的な範囲に限定する。 |
■報酬の支払いに関する新ルール
チェック項目 | 内容 |
---|---|
60日以内の支払い義務 | 成果物の受領日から60日以内に報酬を支払うことが義務づけられているので、この期限を遵守する支払い条件を明記する。ただし、再委託の場合は、元委託者の支払日から30日以内での支払期日設定が可能。 |
延利息の発生条件と計算方法 | 支払いが遅延した場合の利息について、その発生条件や計算方法を明確に定める。 |
前払い金の取り扱い | 前払い金を受け取る場合は、その金額や精算方法、契約解除時の取り扱いなどを具体的に記載する。 |
■契約書の交付義務と電子化対応
チェック項目 | 内容 |
---|---|
書面または電磁的記録による契約書を交付 | 契約内容は書面または電磁的記録(電子メールなど)で交付することが義務付けられているので、交付方法や時期を明確にする。 また、電磁的方法で明示した場合、フリーランスから書面の交付を求められたときは、遅滞なく書面を交付しなければならない。 |
電子契約の有効性と注意点 | 電子契約を利用する場合は、その有効性を担保するため、電子署名や時刻認証などの技術的措置について言及する。 |
■知的財産権の取り扱い
チェック項目 | 内容 |
---|---|
著作権の帰属に関する明確な規定 | 成果物の著作権がフリーランスに帰属するのか、発注者に譲渡されるのかを明確に定める。譲渡の場合は、その範囲や対価についても記載する。 |
二次利用・派生作品に関する取り決め | 成果物の二次利用や派生作品の作成に関する権利や制限について、具体的に定めておく。 |
オープンソースソフトウェアの使用に関する注意点 | オープンソースソフトウェアを使用する場合は、ライセンス条件の遵守や責任の所在について明確にする。 |
■個人情報保護とデータセキュリティ
チェック項目 | 内容 |
---|---|
個人情報の取り扱いに関する規定 | 個人情報保護法にもとづき、個人情報の取得・利用・管理方法について具体的に定める。 |
データセキュリティ対策の明記 | 情報セキュリティに関する具体的な対策や、フリーランスが遵守すべきセキュリティポリシーについて記載する。 |
情報漏洩時の責任範囲 | 万が一情報漏洩が発生した場合の責任範囲や対応手順について明確にする。 |
■紛争解決手段の明確化
チェック項目 | 内容 |
---|---|
調停・仲裁条項の導入 | 紛争が発生した場合の解決手段として、調停や仲裁の利用について定めておく。 |
管轄裁判所の指定 | 訴訟になった場合の管轄裁判所を指定することで、紛争解決の効率化を図る。 |
ADR(裁判外紛争解決手続)の活用 | 裁判外で紛争を解決する手続きであるADRの利用について言及し、柔軟な紛争解決の選択肢を確保する。 |
■契約終了時の手続きと義務
チェック項目 | 内容 |
---|---|
成果物の引き渡し条件 | 契約終了時の成果物の引き渡し方法や、検収手続きについて具体的に定める。 |
機密情報の返却・破棄 | 契約終了後の機密情報の取り扱いについて、返却や破棄の方法を明確にする。 |
■コンプライアンスと法令遵守
チェック項目 | 内容 |
---|---|
反社会的勢力排除条項 | 反社会的勢力との関係遮断を明記し、違反時の契約解除などの措置について定める。 |
ハラスメント防止に関する規定 | フリーランス新法で求められるハラスメント防止対策について言及し、具体的な取り組みを明記する。 |
法令遵守の誓約 | 双方が関連法令を遵守することを誓約する条項を設け、コンプライアンス意識を高める。 |
以上のチェック項目を参考に、フリーランス新法に対応した業務委託契約書の作成が求められます。チェック項目の内容を契約書に組み入れることで、トラブルを未然に防ぎ、クライアントとフリーランス双方の健全な取引関係を築くことができます。
フリーランスが使いやすい契約書のテンプレート
作成しやすい契約書のテンプレートがありますので、ここで最後にご紹介しておきましょう。どちらもわかりやすく簡単に作成できます。
Web系フリーランスをモンスタークライアントから守る契約書
https://websae.net/contract_document/
労働契約書の書き方見本ダウンロード
https://www.bizocean.jp/doc/category/81/
業務委託契約書の内容をしっかりチェックしよう
フリーランス新法の施行により、業務委託契約書の内容が重要性を増しています。契約書を作成する際は、必須記載事項や禁止される不当な取引条件、報酬支払いの新ルールなどを確認しましょう。また、知的財産権の取り扱い、個人情報保護、紛争解決手段なども明確に定める必要があります。双方の権利と義務を適切に定めた契約書を作成することで、トラブルを防ぎ、健全な取引関係を築くことができます。契約書の内容を十分に理解し、必要に応じて専門家に相談してください。
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