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会社員からフリーランスの個人事業主に転身する際、「どの健康保険に加入するべきか」と悩む人も多いのではないでしょうか。会社員時代の健康保険を任意継続する方法や、新たに国民健康保険に加入する方法などいくつか方法がありますが、それぞれにメリットとデメリットがあるため、自身に合った選択をすることが重要です。
本記事では、会社員からフリーランスに変わったエンジニアの方のために、国民健康保険と健康保険任意継続制度のどちらにすべきか、そしてそのメリットやデメリット、おすすめの人について解説します。
フリーランスが加入できる4種類の健康保険
会社員からフリーランスになった際に選べる保険は、以下の4種類です。この中でも一般的には、まずこれらの選択肢についてしっかり理解しておきましょう。
フリーランスの保険その1――国民健康保険
国民健康保険は、フリーランスなどの企業勤めをしていない人が加入する健康保険です。保険料は前年度の所得によって計算されます。そのため、サラリーマンから独立した人や、昨年の所得が多かった人は保険料が高額となってしまう特徴があります。
フリーランスの保険その2――健康保険任意継続制度
健康保険任意継続制度とは、勤めていた会社の社会保険や健康保険を退職後もそのまま継続する方法のことです。退職時に契約を延長するように申し出れば可能です。退職日までに2ヵ月以上継続して社会保険に加入していた人が条件です。
ただし、任意継続ができるのは2年間のみとなっています。また、会社と折半していた保険料が退職後は全額を負担することになるので、原則は倍の保険料になります。ただし上限があるので注意が必要です。
フリーランスの保険その3――国民健康保険組合
国民健康保険組合は、特定の職業や業種に従事する人々が加入できる健康保険です。例えば、文芸・美術など芸術活動を行っている人を対象とした文芸美術国民健康保険組合、美容業界の人を対象とした東京美容国民健康保険組合などがあります。
特定の業種に従事するフリーランスであれば、国民健康保険よりも保険料が安くなることもあり、組合によっては独自の福利厚生も利用できます。ただし、加入資格が限定されているため、条件の確認は必須です。
フリーランスの保険その4――健康保険の被扶養者として加入
家族の健康保険に被扶養者として入るという方法もあります。この場合はあなたの保険料の負担は実質ゼロになります。
ただし、扶養条件は厳しく、年収が130万円未満でかつ扶養者の年収の2分の1未満であること、被保険者と生計を共にしていることなど、いくつかの条件を満たす必要があります。扶養に入れるかどうかについては、フリーランスになる前に詳細を確認しておくと安心でしょう。
国民健康保険と任意継続ならフリーランスにはどっちがおすすめ?
会社員からフリーランスの個人事業主に転身する際、収入や家族構成に応じて国民健康保険または任意継続のどちらかを選ぶのが一般的です。
特定の業種に従事する場合は国民健康保険組合に加入できる場合もありますが、対象となる職種が限定されているため、すべてのフリーランスが利用できるわけではありません。さらに、家族の健康保険に被扶養者として加入する方法もありますが、所得が130万円未満でなければならないなど、収入制限が厳しいため、現実的には適用されにくい選択肢です。
国民健康保険は誰でも加入可能ですが、収入が高いと保険料も上がるため高額になる場合があります。一方、任意継続は前職での健康保険を退職後も継続できる制度で、保険料は一定です。ただし、任意継続が適しているかどうかは、自身の収入や被扶養者の有無などの状況により異なります。国民健康保険と任意継続のどちらが自分に合っているか、メリット・デメリットを知っておきましょう。
国民健康保険のメリット
多くのフリーランスが加入している国民健康保険には、どのようなメリットがあるのでしょうか。ポイント別に確認していきます。
加入条件が緩やか
フリーランスにとって、国民健康保険の加入条件が緩やかであることは大きなメリットといえます。フリーランスとして独立後すぐの収入が安定していなくても容易に加入できるからです。
国民健康保険は、市区町村が運営する公的な健康保険で、会社員や公務員以外の幅広い人々を対象としています。日本国内に住所を有していれば、以下の条件に該当しない限り、フリーランスはもちろん、アルバイトで生計を立てている場合や無職の場合でも被保険者として加入が可能です。
<国民健康保険に加入できない人の主な条件>
・ほかの医療保険(健康保険)に加入している人、その被扶養者
・生活保護を受けている人
・後期高齢者医療制度に加入している人
・短期滞在在留外国人の人
この柔軟性の高さは、特にまだ収入が安定していない時期のフリーランスにとって大きなメリットになるでしょう。
加入期間に制限がない
国民健康保険には加入期間の制限がないため、キャリアの変化に応じて継続できることがフリーランスにとってメリットになります。国民健康保険は、年齢や過去の加入歴にかかわらず、必要な期間だけ継続して加入できるため、フリーランスと会社員を行き来するような多様なキャリアパスにも対応します。
例えば、一時的にフリーランスとして活動した後に会社に就職し、再びフリーランスとして独立する場合でも、その都度国民健康保険に再加入することが可能です。
保険料の減額制度がある
国民健康保険に設けられている保険料の減額制度も、フリーランスにとってのメリットのひとつです。国民健康保険には、世帯の所得が国の定める所得基準を下回る場合、申請不要で自動的に保険料が減額される制度があります。所得に応じて最大で7割まで減額されるため、経済的な負担を軽減することが可能です。
ただし、この自動減額を受けるためには、世帯全員の所得申告が必要です。所得が把握できていない場合は、基準に該当するかどうかの判断ができないため、減額されません。
保険料の上限がある
被保険者が支払う保険料に上限が設けられている点も、メリットに挙げられます。所得が多くなったとしても際限なく保険料が上がるわけではありません。
国民健康保険は、年齢や所得に応じて支払う保険料が計算されます。しかし、一定以上の所得がある場合には、支払う保険料の上限が設定されています。そのため高額な収入を得ているフリーランスであれば、このこともメリットといえます。
具体的には、2024年度の国民健康保険料の年間上限額は106万円となり、対象は年収約1,160万円以上の単身世帯などです。ただし、この上限額は年度によって変わることがあり、また自治体によっても異なることがあります。
国民健康保険のデメリット
一方、国民健康保険のデメリットはあるのでしょうか。デメリットを把握した上で、加入の判断をすることが重要です。
扶養制度がない
扶養制度がないことは、国民健康保険の大きなデメリットです。被扶養者がいるフリーランスの人は、この点をしっかりと考慮する必要があります。
国民健康保険には、扶養という考え方がありません。そのため、これまでの健康保険で扶養として加入していた家族は、国民健康保険では全員が個別に加入する必要があります。そのため、家族が多い場合は、世帯全体で支払う保険料が多くなってしまいます。これまで会社の健康保険に入っていた人は、個別に支払う必要がなかった被扶養者の分の保険料も支払うことになるので、負担が大きくなります。
出産手当金や傷病手当金が支給されない可能性もある
出産手当金・傷病手当金が支給されない可能性もある点は、国民健康保険のデメリットです。国民健康保険では、出産手当金や傷病手当金が任意給付となっており、ほとんどの市区町村ではこれらの給付が実施されていません。フリーランスにとっては、病気やケガで働けない期間や出産時などの休業中に十分な補償を受けられないことが大きなリスクとなります。
保険料の負担が大きくなる可能性がある
収入が前年度と比べて急激に少なくなってしまうと、保険料の負担が大きくなってしまうのも、国民健康保険のデメリットです。
国民健康保険の保険料は前年度の所得によって計算されます。そのため、前年度の収入が多かった場合、今年度は仕事が激減しても、前年度の高収入を基準とした高額な保険料を支払う必要があります。収入が急激に減少しているにもかかわらず、前年度の所得にもとづく保険料の支払いが続く場合、経済的な負担は大きくなるかもしれません。
ただし、前述したように、こうした状況に対する救済措置として、収入減少の理由や程度によって保険料の減免制度を利用できる場合もあります。
任意継続のメリット
続いて、任意継続に関しても解説します。まずはメリットについて見ていきましょう。
扶養制度が利用可能
任意継続の大きなメリットは、扶養制度が利用可能なことです。任意継続を選択した場合は、退職前と同様に家族を被扶養者として加入させることができます。国民健康保険の場合と違い、被扶養者の保険料負担が発生しないため、世帯全体の保険料負担を大きく抑えることができます。
国民健康保険より保険料が安くなる可能性もある
収入額によって国民健康保険よりも保険料を抑えられる可能性があるのも、任意継続を選ぶメリットです。特にフリーランスとして高収入を得る見込みが高い場合や、被扶養者が多い世帯の場合、国民健康保険よりも保険料を抑えられる可能性が高くなります。これは任意継続の保険料が、退職時の標準報酬月額を基準に算出されるためです。
ただし、保険料の負担率は、加入している健康保険によって異なります。現在、勤務している会社の健康保険の負担額を把握した上で、任意継続と国民健康保険のどちらが保険料を抑えられるかを事前にシミュレーションしましょう。
健康保険の独自サービスを継続利用できる
会社員時代に健康保険の独自サービスを利用していた場合は、フリーランスになったあともそれらを継続して利用できる可能性が高いのもメリットです。
任意継続では、健康保険組合が提供する保養施設の利用や、各種健診サービス、医療費の付加給付など、在職中に利用できていた独自の福利厚生サービスを継続して受けられるのが一般的です。ただし、休業手当金、育児休業手当金、介護休業手当金などは給付されません。
任意継続のデメリット
任意継続のメリットがある一方で、デメリットもあります。以下の点をしっかりと把握しておきましょう。
加入期間が最長2年間に限定される
任意継続のデメリットは、加入期間が限られることです。任意継続被保険者として加入できる期間は、退職日の翌日から最長2年間までと定められています。2年を経過したあとは、国民健康保険などほかの健康保険に加入しなければなりません。
保険料が全額自己負担になる
会社員時代と比べると、フリーランスになってからの保険料は全額自己負担となるのもデメリットです。在職中は事業主と被保険者で折半していた保険料を、任意継続では全額自己負担しなければなりません。つまり、退職前の2倍の保険料負担が発生するため、経済的な負担が大きくなります。
申請期限がある
任意継続被保険者となるためには、退職日の翌日から20日以内に手続きを行う必要があるというのも、デメリットに挙げられるでしょう。この期限を過ぎると任意継続被保険者として加入することができなくなります。手続きの遅れは資格喪失につながるため、注意が必要です。
出産手当金や傷病手当金が対象外になる場合がある
健康保険組合によっては、任意継続被保険者は出産手当金や傷病手当金の支給対象外となることがあるのも、デメリットです。一部の健康保険組合では任意継続被保険者への出産手当金の支給を行っていないことがあり、また、傷病手当金についても、任意継続被保険者期間は被保険者期間として計算されない場合があります。
国民健康保険がおすすめの人
では、国民健康保険に加入した方がいいのはどのような人なのでしょうか。おすすめできる人の条件は以下のとおりです。
収入が大幅に減少する見込みの人
フリーランスとして独立後、数年間は収入が会社員時代より大幅に減少する見込みという場合は、国民健康保険がおすすめです。国民健康保険は前年の所得にもとづいて保険料が算出されるので、翌年の保険料も収入に応じて下がります。そのため、例えば今年度の収入が少なければ、来年度の国民健康保険の保険料はそれだけ抑えられます。
ただし、初年度は前年(会社員時代)の所得を基準に保険料が計算されるため、最初は保険料が高くなる場合もあることに注意しましょう。
独立直後で収入が不安定な人
上記と併せて、独立直後で収入が不安定という場合も、国民健康保険がおすすめです。
国民健康保険には、収入の減少に応じて保険料を軽減する制度があります。特に事業の不振や休廃止、失業などにより収入が著しく減少した場合、申請により保険料の一部が減免される可能性もあります。また、所得が一定水準以下の場合は、保険料の一部である均等割額と平等割額が7割・5割・2割に軽減される制度も利用可能です。フリーランスとして独立後の収入が不安定な時期には、国民健康保険のこれらの制度を利用できる可能性があります。
前職の収入が高く、任意継続の保険料が高額になる人
会社員時代の収入が高くて保険料が高額だったという人も、国民健康保険に加入するのがおすすめです。
任意継続の保険料は、退職時の標準報酬月額をもとに算出され、その金額が2年間固定されます。例えば、退職時の標準報酬月額が高かった場合、任意継続ではその金額が保険料計算の基準となり、2年間変わらないため、保険料が高額のまま維持されます。収入が減少した場合でも保険料負担が軽減されないことがあり、経済的な負担が大きくなるかもしれません。
任意継続がおすすめの人
任意継続がおすすめの人についても見ていきます。以下のような状況の人は、任意継続の利用を検討してみてください。
被扶養者が多い人
被扶養者が多い人は、任意継続を選ぶのがおすすめです。任意継続では、退職前と同様に被扶養者も引き続き保険に加入でき、家族の人数にかかわらず保険料が増えることはありません。国民健康保険では家族全員が個別に加入して保険料を支払う必要がありますが、任意継続では被扶養者分の保険料は発生しないため、家族が多い世帯ほどメリットが大きくなります。
フリーランスとして独立後に収入が上がる可能性が高い人
フリーランスになったときに前年度より収入が増える見込みの人にも、任意継続がおすすめです。独立後に収入が大幅に増加すると、翌年の国民健康保険料がその増加に応じて高くなる可能性があります。一方、任意継続健康保険の保険料は前職の給与をベースに計算されるため、収入が増えても保険料は変わりません。
そのため、独立後に大幅な収入増加の見込みがあり、かつ前職の給与が比較的低かった場合は、任意継続を選択すれば、保険料を抑えられる可能性が高くなります。ただし、2年後には国民健康保険に切り替える必要があることを念頭に置く必要があります。
前職の健康保険で独自給付を受けていた人
会社員時代に加入していた健康保険で独自給付やサービスを受けていた人も、任意継続がおすすめです。任意継続を選択すれば、多くの場合、健康保険組合が提供する保養施設の利用や、各種健診サービス、医療費の付加給付など、在職中に利用できていた独自の福利厚生サービスを継続して受けられます。これらの独自給付を受けていた人は、任意継続のほうがメリットは大きいでしょう。
フリーランスとして2年以内の短期間で働く予定の人
短期間のフリーランス期間を予定しており、2年以内に再就職する予定がある方には、任意継続の利用がおすすめです。任意継続は最長2年間利用できるため、短期間のフリーランス期間をカバーするのに適しています。
また、退職日の翌日から被保険者の資格を取得できるため、健康保険の未加入期間の発生を防げるというメリットもあります。
国民健康保険と任意継続双方の特徴をよく知ることが大切
国民健康保険は所得に応じて保険料が変動し、期間制限はありません。一方の任意継続は退職時の給与をベースに保険料が決まり、被扶養者分の保険料は発生せず、利用できる期間は最長2年間です。会社員からフリーランスへ移行する際には、これらの違いを踏まえて、どちらが適しているかを慎重に検討することが重要です。最終的には、具体的な収入見込みや家族構成、居住地域などを考慮し、両方の保険料を試算して判断することをおすすめします。
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