I->Read(Books); 〜とあるフリーランスIT技術者の本棚〜
博物館を疑似体験「コンピューター&テクノロジー解体新書」
みなさんが子供のころ、家に図鑑はあったでしょうか。
筆者の家には、動物図鑑や植物図鑑、昆虫図鑑といったものや乗り物図鑑といったものまで、さまざまな図鑑があったと記憶しています。
暇があるとそれらの図鑑をながめては、いつ役立つのかわからないような知識をたくわえていました。
そうしてたくわえた知識はいまでも記憶にあり、たとえばテレビで「謎の生物」などといって日本ではあまり見かけない生物を映して煽っていても、「ああ、あれね」と答えを言ってしまい、興奮してテレビを見ている家族を興ざめさせることが多々あります。
コンピューター&テクノロジー解体新書
今回紹介する書籍は、子供が眺めて知識をたくわえるには少し難しいのかもしれませんが、時間を持て余した大人たちが、いつ役立つかわからない知識を蓄えるべく何となく眺めるにはちょうど良い本です。
ビジュアル版 コンピューター&テクノロジー解体新書
著者: ロン・ホワイト
イラスト: ティモシー・エドワード・ダウンズ
翻訳: トップスタジオ
刊行: SBクリエイティブ
(引用元:http://www.sbcr.jp/products/4797384291.html)
書籍の表紙を見ると、著者や訳者の名前といっしょに、イラストレーターの名前が記されています。
そこからわかるとおり、この本ではイラストがとても重要な役割を果たしています。
たとえば、コンピューターを構成する部品のひとつとして、トランジスタがありますが、このトランジスタの原理をこまかく説明するには、大学の授業が数コマは必要です。それも、その授業を理解するための基礎知識があることが前提です。
しかしながら、この書籍では、イラストを効果的に活用することで、トランジスタの原理をわずか2ページの見開きで説明しています。
見開きの2ページで説明できる範囲には限界があるため、読めばトランジスタのすべてが分かるというわけにはいきません。それでも、トランジスタが、コンピューターの動作にどう関わってくるのかを知るには十分な知識を読者にあたえてくれます。
カラフルな絵が多用されているという点と、コンピューターと関連するテクノロジーについての説明が見開きのページの中に簡潔にまとめられているという点で、この書籍は図鑑を思い起こさせます。
実際、目次を見て、興味があることがらに触れているページを読むだけでも、この本はじゅうぶんに楽しめます。
そういう点においては、子供が手にとって眺めるだけでも、各ページに記された知識がなんとなく頭の中に残るのではないでしょうか。
一方で、この本が図鑑と大きく異なるのは、そこで取り上げられている知識が一連の連なりをもって取り上げられているということです。
はじめはトランジスタやメモリの動作原理にはじまり、マザーボード、プログラムといった順に、コンピューターの成り立ちを追体験できる形で記されています。
そのうえで、コンピューターについて、われわれにとって身近な話題にも触れています。具体的には、コンピューターでいかにしてゲームが実現されているかといったことや、インターネットを介して家庭で映画が見られるしくみといったことです。
こうした記述の展開は、図鑑の枠を超えています。
博物館にいるような体験
「これに近い展開を体験したことがあるな」と思いましたが、わかりました。
博物館にいったときに限りなく近い体験です。
コンピューターとテクノロジーの博物館を巡ったなら、きっとこの本を読んでいるときと似た感覚になれるはずです。
コンピューターの動作原理から始まり、それらがどう利用されているかについて、図や文章、模型といった展示物であれこれ説明されている感じを思い浮かべてください。
この本を読んでいる感じは、きっとその想像に近いです。
読者のみなさんも経験があるかと思いますが、博物館では必ずしもすべての展示物の図や文章をつぶさに見たり読んだりすることはないかと思います。
この本についても同じことが言えます。
この本を読もうとすると、知りたいことだけを読み取ろうというスタンスで向き合うことになるはずです。
さらにいえば、見開き2ページの文章とイラストで触れられるそれぞれのことがらについての解説は、どうしても駆け足になりがちです。
その点においては、コンピューターに深く関わるIT技術者があらためて読むには「いまさら」という書籍かもしれません。しかし、コンピューターについて詳しくないひとに、何かコンピューターについて質問されたときに説明するのにはうってつけではないでしょうか。
この書籍に記されている内容であれば、そのページを開いて説明して、書面に不足している知識があれば口頭で補うといった使いかたが考えられます。
IT技術者なら、一家に一冊そなえても良い本なのかもしれません。
平岩 明憲
フリーランスのIT技術者です。業務系システム開発をメインにしています。有限責任事業組合アプライトネスのメンバーです。とあることがきっかけで「IT技術者が、さまざまなことについて、いろいろな人と話し会える場が必要だと」と思い立ち、読書会を立案。2012年に「伏見なんでも読書会」をはじめました。