更新日:
ERP(業務基幹システム)パッケージのSAPは、大企業をはじめとして世界中で導入されています。SAP案件に関わるには製品独自の知識やスキルが必要ですが、それだけに製品自体に将来性があるのか気になっている方もいるでしょう。
そこでこの記事では、SAPの将来性の有無について具体的な根拠とともに解説します。またSAPコンサルタントやSAPエンジニアに必要なスキルも紹介しますので、同職種に興味のある方は参考にしてください。
SAPとは
SAPとは、ドイツを拠点とするERP(業務基幹システム)を取り扱っている会社です。それと同時に、同社が提供するERPのパッケージ名としてもよく知られています。現在、世界で2万5,000社以上の企業がSAPシステムを利用しており、世界・日本国内ともに有数のシェア率を誇っています。
ERPとは「Enterprise Resource Planning」の略で、企業の金・モノ・人などを一元管理するためのシステムです。ERPの導入によって、部門ごとはもちろん社内全体を一括管理できるため、会社全体であらゆる会社の資産や人材を管理・共有が可能になり、全体の業務効率化を促進できます。
SAPコンサルタントとSAPエンジニアの違い
SAPに関わる職種には、SAPコンサルタントとSAPエンジニアがあります。
SAPコンサルタントのおもな役割は、SAPシステムの導入支援や、導入後の社内業務の効率化についてのサポートです。その性質から、ITシステム開発だけでなく、企業の経営全般に関わる職種といえます。
一方で、SAPエンジニアとは、業務基幹システムであるSAPを扱って開発を行なうエンジニアです。具体的な業務内容としては、システムの要件定義や実際の開発、テスト業務など、エンジニアとしての開発業務全般が挙げられます。
SAPはABAPと呼ばれる独自のプログラミング言語を利用しているため、SAP案件に対応できるエンジニア人材は多くありません。SAPエンジニアとしての実力をつければ、市場でも希少価値の高いエンジニアになれるでしょう。
SAPの将来性
次に、SAPの将来性について解説します。
新バージョンのSAP HANAに移行する企業が増えると予想される
現在多くの企業で利用されている「SAP ERP 6.0」は、2027年にサポートが終了する予定です。それにともない、今後は最新バージョンである「SAP S/4 HANA」に移行する企業が増える見込みであり、SAP関連案件での売上も増加すると予測されています。
2027年以降も旧来のバージョンは使えますが、万が一のトラブルがあったときにサポートを受けられません。最悪の場合、社内の基幹業務全体がストップする可能性も考えられるため、バージョンアップせずに使い続けることは企業にとってリスクとなりえます。このことから、SAP導入済みの多くの企業は、今後はS/4 HANAもしくは他のERPシステムに乗り換えるでしょう。
しかも、S/4 HANAはSAP ERP 6.0から大幅に刷新されており、開発案件も単なるバージョンアップでは済みません。システム新規導入に近い形になるため、開発にかかるコストや時間はそれなりの規模になるとみられています。
以上のことから、SAP開発に知見のある人材の重要性やニーズは、まだまだ途絶えないといえるでしょう。
中小企業でERPの導入が進んでいる
SAPは現在、中小企業をターゲットにした基幹システムの販売も行なっています。大企業へのERP導入がある程度進むなか、日本の企業全体の99%以上を占めるとされる中小企業は、ERP新規導入のマーケットとして注目されています。
ERPパッケージ導入には高額な初期費用の問題がありましたが、昨今のクラウド化にともなって、コスト面での障壁は低くなりつつあります。これにより、中小企業へのERP導入も進みやすくなっていると考えられ、SAPにとっても大きなチャンスが残っているといえるでしょう。
企業のグローバル化の対応によりERPの重要性が増す
昨今のグローバル化により、多くの業界において、日本国内だけでなく海外の市場にも目を向ける必要性が出てきています。海外のビジネスに関するスピードは日本以上に速く、このスピード感に合わせるためにも、社内業務の効率化は企業の必須課題です。
これを背景に、社内の煩雑な業務を効率化できるERPの重要性が高まっているのは、いうまでもありません。
世界基準の働き方を実現できるSAPが、今後の日本の企業にとって必要な存在となる可能性は高いといえます。
初期投資金額の減少
現在、ERPシステムもクラウド化が進んでいます。SAPも従来はオンプレミス型でのサービス提供でしたが、近年はAWSなどのクラウドサービスと提携を始めており、クラウドでの利用ができるようになりました。クラウド化の恩恵で導入コストが減ったことにより、参入障壁は低くなっている状況です。
このような背景を受けて、価格を理由にSAP導入を諦めていた企業が検討するようになっています。とりわけ、前述した中小企業は、SAP導入の新たなマーケットとして大きな可能性があります。
SAPコンサルタントやエンジニアに求められるスキル
次に、SAPコンサルタントやエンジニアに求められるスキルについて解説します。コンサルタントやエンジニア固有のスキルのほか、双方に共通するスキルもあり、ご自身の目指す人材像に合わせたスキルアップが必要です。
【コンサルタント】課題解決スキル
SAPコンサルタントは、ただシステムを導入するだけでなく、その企業が最適にSAPツールを利用するため、課題を解決するのが仕事です。したがって、課題解決のためのスキルを持ち合わせていると働きやすいでしょう。これは、一般的にIT業界でコンサルタントと呼ばれる職種に共通するスキルともいえます。
【両方】業務理解スキル
企業の基幹システムを作成するため、業務を理解するためのスキルは必須です。このスキルは、SAPコンサルタント、SAPエンジニアの双方に求められます。
SAP導入においては、クライアントがどのような業界か、業務の流れ、対象となるお客様などさまざまな要素を理解しなければなりません。そもそもERPパッケージは業務効率化を目的としているため、クライアントの業務を理解できなければ、開発の目的を達成することは難しいでしょう。
【両方】ITスキル
ERPはITシステムの一種なので、ERPに携わるにあたって、どのような仕組みで動いているのかなどをある程度把握しておく必要があります。基本的なITに関する知識は、コンサルタント・エンジニアともに必須スキルです。
特に、要件定義フェーズでは、ユーザーとシステムの詳細について詰めていくため、バックエンド、フロントエンドともに知識を備えておかなければなりません。
【エンジニア】ABAP+Javaスキル
SAPはABAPと呼ばれる言語で開発されています。これはSAPシステム開発独自の言語であり、他の開発現場では使えませんが、SAPエンジニアとしては習得必須のスキルです。
SAP開発の現場では、SAPの標準機能だけでは各企業の業務に対応できないため、アドオン開発が必要な場面があります。このとき、ABAPのスキルが求められるのです。
ABAPの構文はCOBOLに似ているところがあるため、COBOLを習得している方にとっては理解しやすいでしょう。
また、SAPのバージョンアップにともない、最近ではJavaも開発に利用されるようになっています。基本となるABAPのスキルを習得しつつ、Javaも身につけておくと、今後活躍の幅が広がるでしょう。
SAPコンサルタントやエンジニアにおすすめの資格
SAPコンサルタントやエンジニアに必須の資格はありませんが、関連する資格を取得すれば現場での業務や就職などに役立つでしょう。
SAPに関する製品知識を保有していることを認定するものとして、SAP社公式の資格があります。SAPに携わる技術者であれば、この公式資格を持っていることで、自身の知識と技術を証明できます。
ただ、製品に関わる資格のため、製品のバージョンがアップデートされるたびに、資格もアップデートが必要です。
認定資格は「アプリケーションコンサルタント」「デベロップメントコンサルタント」「テクノロジーコンサルタント」の3分野に大きく分けられています。それぞれの資格の特徴は、以下のとおりです。
資格 | 概要 |
---|---|
アプリケーションコンサルタント | コンサルタント向けの資格。企業の業務プロセスを効率化する技術力が問われる。 |
デベロップメントコンサルタント | プログラマー向けの資格。SAPアプリケーションを開発する技術力が問われる。 |
テクノロジーコンサルタント | インフラエンジニア向けの資格。システム導入時に発生する課題を解決する技術力が問われる。 |
実際には、上記のカテゴリのなかでも製品やバージョンなどにより細分化されており、約150種類の認定資格があります。
まとめ
ERPパッケージのなかでもSAPは世界・国内で高いシェアを誇っており、今後も多くの企業が利用すると見込まれています。
「2027年問題」といわれるSAP ERP 6.0の2027年サポート終了を見据えて、最新バージョンに移行を検討している企業も多く、SAP案件に対応できる人材の需要は続くでしょう。さらに、クラウド化が中小企業のERP導入を後押ししていることも相まって、SAPに関わるエンジニアやコンサルタントの将来性はまだまだ高いといえます。
SAPコンサルタントやSAPエンジニアとして活躍するには、一般的なITエンジニアとしてのスキルのほかに、SAP独自の知識やスキルが必要です。製品やバージョンごとに必要な知識も異なりますが、SAPに対応できる人材が少ないなかでこれらを身につけていれば、希少価値の高いエンジニア・コンサルタントになれるでしょう。